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山口地方裁判所岩国支部 昭和34年(わ)12号 判決 1959年4月30日

被告人 米兵 M(一九三九・九・二二生)

主文

被告人を山口家庭裁判所岩国支部に移送する。

理由

被告人は台湾屏東駐屯米海兵V・M・F○○○部隊M・A・G××部隊に所属していたところ、本国に帰る途中、昭和三十四年一月十日岩国基地に立寄つたがその際予ねて本国で知合いのポール・ジエイ・ジヨンソンに寄遇し、同夜午後八時頃同人の案内で米海兵隊兵舎を出て岩国市内のバーを飲み歩きその間更に嘗つて勤務を共にしたことのあるエドワード・ジヨンソンに出会い同人より広島にいる女を見せるから同行する様強いて誘われたので一旦兵舎に帰つた後同夜十二時頃広島に向つた。翌一月十一日午前三時頃、被告人とポール・ジエイ・ジヨンソンは広島でエドワード・ジヨンソンに別れ岩国の前記米海兵隊航空施設に帰隊する為広島市薬研堀町から金川政美こと金美永(当二十七才)の運転する宝塚タクシー所属の営業用小型乗用自動車に乗車して右施設に向つたがポール・ジエイ・ジヨンソンは同人並びに被告人の所持金が自動車料金を支払うに足りないことを予め知つていたので逃走しようと考え途中右金に命じて自動車を人気のない岩国市内今津川畔堤防路上に運行させ、同市大字今津六一六番地株式会社八百新酒場横路に停車させた上、自己の所持金を被告人に交付して被告人の所持金と合算させ、被告人に紙幣を確めさせたが合計額が千百円にしか達せず自動車料金に満たないことが判明し、他方被告人を速かに帰隊させなければならぬ必要に迫られていたので突嗟に右料金を踏倒して逃走しようと決意し偶々右金から借受け所持していた懐中電灯で右金の後頭部を二回強打したところ被告人もその場の雰囲気から右ジヨンソンの意図を察し茲に両名は共謀の上被告人に於て更に右金の横腹を一回蹴りつけて転倒させ両名共同して金の反抗を抑圧した上、広島から同所までの自動車料金千六百九十円の支払を免れ以て右金額相当の財産上不法の利益を得たがその際右暴行により右金に対して治療の為八日間を要する左側頭部切創の傷害を負わせたものであつて右の事実は本件記録添附の各証拠によつて明らかであり、法律上刑法第二百四十条前段に該当するが被告人は現在満十九才の未成年である上、

一、被告人等の本件犯行は自動車料金支払を免れる為逃走を目的として為されたものである上、被害者金に与えた傷害の程度もポール・ジエイ・ジヨンソンが偶々被害者から受取つていた懐中電灯によつて殴打した結果生じたもので治療日数八日間程度の比較的軽微なものである。

更に被害の弁償として被害者金に対し治療費、休養手当、慰藉料を支払つた外被害者金の所属する宝塚タクシーに対し不法に強取した自動車料金相当額及び犯行当日の休車料を支払い被害損失の補填に努力の跡が認められる。

二、特に被告人については本件犯行は本国の母親が死亡した為帰国の帰途岩国基地に立寄り翌朝厚木飛行場に向う一夜に為されたものであつて岩国、広島の地理的事情は未知であり偶々岩国基地で再会した友人ポール・ジエイ・ジヨンソンの案内により当夜岩国市内のバーを三箇所飲み歩いて相当酩酊した上、更にバーで出会つた友人エドワード・ジヨンソンの強いての勧誘に従つて自動車で広島に同行し翌朝岩国への帰途自動車料金の交渉はポール・ジエイ・ジヨンソンが当つている点を各斟酌すると被告人は終始友人の案内勧誘に従つて行動したものであつて本件犯行に対する計画性はもとより積極的関与の意思が無かつたことが認められ寧ろポール・ジエイ・ジヨンソンの犯行に巻添えさせられたと考えられる余地がある。

三、尚被告人は過去に於て処罰を受けた事なく岩国基地に於ける上司シー・エル・マクギーの証言によれば被告人は勤務の上で忠実に責任を果し、性格は正直温良で海兵隊内に於て模範兵であること更に本件犯行に関し非常に後悔している事が認められる。

等の罪質、情状に照らすと被告人を強盗致傷被告事件として刑事処分に付するより家庭裁判所に於て保護処分に付するを相当と認める。

よつて少年法第五十五条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 山根吉三 大前邦道 田辺博介)

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